Fan hypnosis?




「ルパン、それあたしに頂戴。ねえ、お願いだから」
リビングのソファーで、女が猫撫で声を出して鼻の下を伸ばした男にしなだれかかっていた。
「不二子たってのお願いだから聞いてあげたいけどさあ、これはダメなんだよ。次の仕事で使うから」
豊満な乳を胸に当てられ、満足そうな表情とは反対に言葉は願いを拒否していた。
「ペンデュラムなんていくらでも替えが利くじゃない。紫色の翡翠だって、珍しいけど大した価値じゃないでしょ」
女が手を伸ばした先には、チェーンをつけられたコンテクスト・カットの宝石がある。ルパンはそれを長い腕で天井に近づけ、女の手が届かないようにしていた。
「絶対やるなよ、ルパン。安もんでもなくなったら困る」
目の前でイチャつかれるのは慣れたが、獲物をこの女に奪われるのだけは慣れたくない。
向かいのソファーで寝転がっていた俺は、女に睨みをきかせた。
「なぁによ、男同士で占いでもしようっていうの?気持ち悪いわ。どうせするならあたしとしましょうよ、ルパン」
女がそう言って手を伸ばすが、ルパンは遊ぶようにその手から逃れていた。
女が求める翡翠のペンデュラムは、ダイヤモンドの鉱脈を見つけると言い伝えられているものだ。
俺たちが先に手に入れると、普段は用がなければやってこない女が、遊びに来たと言って訪れた。
ルパンの野郎が漏らしたのか、自分で探ったのか。どちらにせよ、この女の真意は見え透いている。
「魔女なら使うのは黒魔術だろ。黒猫かカラスでも捕まえてろ」
嫌味を言い、いつまで居座る気なのかと苛立ちを露わにした。
「あんただって似たようなものでしょ。一年中ブラックスーツなんてカラスか黒猫だけよ。ねえルパン、外に出ましょ」
「ほんと?こんな時間からデートじゃ、行くところは一つしかないぜ」
「ルパン、行くならそいつは置いて行けよ。おい!聞け!」
ルパンはその気になり、女に引っ張られて立ち上がった
。赤いジャケットに車のキーを放り込み、俺の言葉を無視してペンデュラムを持ったまま部屋を出て行った。
アジトの外からベンツのエンジンのいななきが聞こえ、あっという間に夜の街へ走り去って行った。
俺は苛立ったが、追いかける事はせず舌打ちをする。
どうせ、あと一時間もすればペンデュラムを奪われ、泣き泣き男一人で帰ってくる。
そんなことは目に見えていた。
毎度毎度学習する気のない男への苛立ちは、説教でぶつけてやる。
キッチンへ向かい、腹の虫が暴れるのをなだめるために、この部屋で一番高い酒を開けた。

きっかり一時間後、アジトの外でベンツが車庫に入る物音がした。
予想的中だが、面白くはない。
「たでーま」
リビングに戻ってきたルパンに、落ち込む様子は微塵もなかった。
真逆に上機嫌で、頬にはハート型のルージュの跡がついている。
「ルパン、そんなキス一つで獲物をくれちまったのかよ。いっそ猿回しの猿としてあの女のところに就職したらどうだ」
色香にやられてタダで獲物を渡すなんてバカにもほどがある。
俺は説教の前に罵倒してやろうとルパンを睨んだ。
俺が説教を始めると、ルパンはいつもあからさまに面倒くさそうな顔をする。
そして聞こえないと言わんばかりに無視するのだが、今日は違った。
自慢げに笑い、ポケットに両手を突っ込んでソファーで酒を飲んでいた俺の傍に立つ。
「怒るのは早いだろ、次元」
ポケットから右手が出され、俺の頭上に拳が掲げられた。
何を出す気だと見上げると、先ほどの翡翠のペンデュラムが落ちて来る。
獲物は奪われていない。
それはわかったが、あの女がすんなり諦め、その上こいつにキスまでしたなどと思えなかった。
そんなことは、この天地が引っ繰り返ってもないというものだ。
「それ、本物か?」
ルパンはすり替えられたことに気づかず、無事持ち帰って来たと思い込んでいる可能性がある。
それを確かめるために尋ねると、ルパンは正真正銘本物だと言って俺の隣に腰を下ろした。
「ところで次元、こいつにはもう一つ不思議な力があるって言われてるんだが、知ってたか?」
言われて、しばし考える。
宝石としての価値がない石が、お守りとして売られていることくらいしか思い浮かばない。
「石を身に着けると浄化されるとかってやつか?そんなもん、石くず売るためにつけられたおまじないだろうが」
「ノンノン、こいつは身に着ける以外で、素晴らしく役立つのさ」
ペンデュラムのチェーンを摘み、ゆらゆらと空中に垂らす。
それから、俺の眼前に移動させた。
「あなたはだんだん眠くなぁる、ってな具合でな」
「……催眠術か」
「ビンゴ!こいつは術士のスキルに関係なく、催眠術をかけちまう代物なのさ。ダイヤモンドの鉱脈を当てる方が有名になっちまって、知ってるやつはほとんど居ない。
俺も眉唾だとは思ってたんだけど、不二子にかけてみたらまあ面白いくらいかかってさあ。
キスも熱烈にしてくれたけど、後が怖いからそこで家に帰れって言って終わり」
ぺらぺらと喋るが、怪しいところだ。
仮にその力が本当だとして、素直にかかってやる女ではないはずだ。
別の取引で手を引いたということも考えられる。
「疑ってんな、せっかくならかかってみる?」
そう言って紫の石を揺らす。
やめろ、と俺は石を掴んでソファーの端に放り捨てた。
「遠慮するぜ。そんなものにかかるほど俺はお人よしでもバカでもないからな」
催眠術などくだらない。
グラスの中にあったミクターズの二五年を飲み干してしまう。
ルパンは捨てられた石を手に取り、俺の目の前に再び掲げた。
「ただの遊びだろ、いいじゃん」
女が自分の思い通り動いたと言っただけあって、奴は乗り気だった。
「お前がかかるか、俺がかけ損ねるか。
お前が勝ったら、その酒より上等なのを盗んできてやるよ。
ダブル・イーグル・ベリー・レアなんてどうだ。まだ飲んだことないだろ?」
奴の言う銘柄は、バーボンの世界では最も値が張るものだ。
とんでもなく高級で、世には多少出回っているものの、お目にかかれたことさえない。
それもそのはずで、投資代わりに呑まずに取っておいてしまわれたり、持ち主が秘蔵にしてしまったりされている。
「その言葉、忘れるなよ」
俺が勝つとわかっている勝負だ、乗らない方がもったいない。
俺はグラスを置き、奴に顔を向けた。
「本当に酒好きだよなあ。あ、ちなみに俺様が勝ったらそのままお前が犬になる催眠術かけるからな」
「その時はお手でもなんでもしてやるさ」
紫の翡翠が、ゆらゆらと半円にも満たない弧を空中に描き始める。
「次元ちゃんはだんだん眠くなる……眠くなる……目蓋を閉じたくなる……」
ルパンの声がしんとした部屋に響く。
俺は宝石を目で追いながら、いつルパンの負けだと言うか、その時を待った。
「指が鳴ったら、もうお前は目を開けていられない……」
突然、目蓋が重くなった。頭がくらくらする。
ああ、きっと酒のせいだろう。
俺の頭はぼんやりしてきた。
目蓋だけに重力がかかるような感覚がした。
パチン。指を鳴らす音がした後、意識がふと途切れた。


ソファーでうなだれた次元を見ながら、俺はペンデュラムにキスをした。
やはり、こいつは素晴らしいお宝だった。
不二子にも同じ賭けを持ちかけて、すぐに術にかかってしまった姿を思い出す。
不二子の場合は、鉱脈の位置を餌にしたら簡単に賭けに食いついた。
俺は新しい玩具を手に入れた子どものように浮かれて、頬にキスの他に、色っぽく迫らせたり、色々と楽しませてもらった。
次元も、酒を飲んで酔っていたせいもあるだろうが、すんなり賭けに乗った。
そして見事にかかった。
次元は合図の後にうなだれ続けていたが、瞳はうっすら開けていた。
半分寝ている状態に近いのだろう。
「次元、もう一度指が鳴ったら、お前は犬だぜ」
中指と親指を擦り合わせ、小さな破裂音を出す。
瞳が半分ほど開いて、顎をすくい上げれば俺を見る。
「一回鳴いて」
「……わん」
「ふふ、いいこだぜ」
帽子を外して黒く多い髪を撫でると、次元はなぜ褒められているのかわからないという顔をしていた。
「じゃあ次はお手」
帽子を自身の頭に被せ、手のひらを差し出せば、軽く握った拳を乗せる。
おかわりと言えば逆の手を出し、伏せと言えばソファーの上で足を畳んで俺を見上げる。
犬そのものになった次元のネクタイを解いて、リードのように首にくくってやった。
「かーわいい、お前って犬が似合うなァ」
また髪を撫でて、起きろと命令する。
そろそろ術を解いて、今までの様を教えてやろう。
「指が三回鳴ったらお前はもとに戻るぜ」
予告通り指を三回鳴らす。
するとぼんやりとした目が、はっと開いた。
「なんだ、終わりか。全然かかってねえぞ」
記憶がないらしく、正気に戻った顔が言う。
「かかってないなら、なんで首にネクタイなんて巻いてんのかね」
俺が指摘すると、次元は驚いたように自分の首に触る。
ついでに帽子も俺の頭の上にあることにも気づいたらしい。
「かわいくて、お利口な犬だったぜ」
「ッくそ!」
まんまとかかってしまった自分が恥ずかしいらしく、ネクタイを解きながら悪態を吐いた。
その後に、俺の手の中にあるペンデュラムを見る。
「寄こせ。俺もやってやる」
「そいつはできねえお願いだ」
「うるせえ!お前を猿にしてやる!」
先ほど不二子がやったように、俺に抱き着いてペンデュラムに手を伸ばす。
もう少しで届くと、指先を伸ばすのを、首にキスをして気を逸らせる。
「バカ、やめろ、くそ、寄こせッ」
「次元ちゃんたら積極的~~」
「ざけんなッ、この、触んな!」
無防備な腰や尻を撫で、いつ諦めるかとペンデュラムを餌にする。
「いい加減にしろ!」
「あでェ!」
思い切り頭突きを食らい、うっかりペンデュラムを手から離した。
床に落ちたのを、次元が即座に拾い上げる。
「いってェなあ、もう。お前はすーぐムキになるから嫌なんだよ」
額を手で擦りながら言うと、次元はざまあみろと笑った。
「次はてめえの番だ」
ノーとは言わせない、そう意気込んで次元はチェーンの端を摘まんで俺に見せた。
「いいけどさァ。俺様そういうのに対して訓練とか、対策とか、けっこうやってるから無駄だぜ」
「んなことは終わった後に言え」
次元が言い捨て、お前を絶対猿にすると俺の真似をして翡翠を揺らし始めた。
次元には秘密にしていたが、どんなに強い催眠術にもかからない方法はある。
それは相手がかけるより強い催眠を、自分自身でかけてしまうことだ。
次元の声を意識の外から出し、自分自身の意識に集中する。
そうしてしまえば、他者の声などすぐに聞こえなくなる。俺は猿にはならない。
どんな催眠術も無駄だ。俺は他者の言う通りにはならない。
自分への暗示が終わる頃、片目を開いた。次元はかけ終わったと思っているらしく、壁を登れなどなんだのと言っていた。
「ウキキ」
かかったふりをして、次元をソファーに押し倒す。
次元はばたばたと藻掻き、俺の頭を叩いた。
「俺じゃねえ、壁だよ壁、このバカ猿」
「ざーんねーんでした、俺様はかかってませ~ん」
「はあ?くそ、なんでだよ、術士のスキルに関係ないんじゃないのかよッ」
「お前に才能がなさ過ぎてペンデュラムちゃんもやる気なくしちまったんじゃねえの?」
ペンデュラムを取り返し、俺は自分の懐にしまった。
次元は面白くないといった顔で、むくれていた。
「ちくしょう、もう一回勝負しろ」
「諦め悪いぜぇ。お前はかかるって、絶対」
犬にされたことが相当悔しかったのか、次元はしろとうるさかった。
そして俺から帽子を取り返して、自分の頭に深く被せた。どうやら振り子を見ない、という作戦らしい。
「これで終わりだぜ、次元」
「うるせえ。俺が勝ったら、猿の衣装着て街の中逆立ちで一周しろよ」
「時季外れのハロウィンかあ、やりたくねえなあ」
適当に返事をし、俺はペンデュラムを出すフリだけして、次元の前には出さなかった。
催眠術では、振り子はとっかかりの一つでしかない。
そんなものがなくても、かかる奴にはいくらでもかけられる。
「お前は二回指を鳴らすと、眠たくなる……」
何度か言った後、二度同じ音を立てる。
すると次元は前のめりになり、帽子を外すとまたさっきのようにぼんやりと目線を床に下ろしていた。
どうやら次元は、このお宝の効能どうこうではなく、そもそも催眠術にかかりやすいらしい。
これでは敵にやられた時にかなり不利だ。
あまり教えたくないものだったが、今後を考えるとかからないための訓練はするべきだった。
「すーぐ人を信じちまうから、こういうのに弱いんかね。ダメだぜ、俺以外とこんな遊びしちゃ」
無抵抗な唇にキスをして、ソファーに押し倒す。
革張りのクッションに沈み、帽子を再び外してテーブルの上に乗せておく。
「賭けに勝ったのは俺だかんね。さぁて何してもらっちゃおうかな」
黒いジャケットを脱がし、シャツの下数段のボタンだけを外して腹を撫でた。
普段、次元は誘えば嫌がるフリだけしてすぐに乗ってくれるが、少しでも過激なプレイをしようとすると怒る。
したいと思ってできていないのも山ほどあった。
「あー俺あれやりたかったんだよね。普段のお前ならすっごい怒るやつ」
押し倒した身体を起こさせ、床に膝を突くように言った。
次元は言われるがままで、腰のあたりに頭を近づけさせても嫌な顔一つしない。
「前だけ外して」
「……」
何も答えないが、そろそろと俺のベルトに手を伸ばした。
バックルを外し、ジッパーを下ろす。
「よしよし、それでいいぜ」
雄はまだ反応していない。
萎えたそれを取り出して次元の酒で濡れた唇に擦りつけた。
顎を抑えるように撫でて、口を開かせないようにする。
「咥えなくていいぜ。後でやるけど」
「ッ、ん……」
薄く柔らかい唇に擦りつけながら、顔を上げさせた。
フェラチオなら散々やってきたが、顔全体を使ってやったことはない。
骨ばった頬に擦りつけると、気持ちよさは薄いがだんだん興奮してくる。
「次元、舌出して」
舌を引っ張って出させ、そこに竿を当てる。
そのまま腰を揺すれば、頬を擦られながら舐っている表情が見れた。
「ふは、やらしいなァ」
雄がむくりと膨れて、髭の生え際、鼻筋から額、首元で髪も使う。
前に同じようにしようとして、変態だと腹を殴られて抵抗された。
こんなに興奮する前戯はないと言っても、次元は理解してはくれなかった。
「顔中俺のもんで濡らしてるなんてさ、たまらないぜ。別に男ならそう考えても珍しくもないだろ、次元」
全力で抵抗していた時の次元に語りかけながら、また舌先だけで竿を舐めさせる。
先走りで濡れた顔は、どうやら興奮し始めたらしくとろけた目に熱を持たせていた。
「せっかくだし、色々試したいよな?」
「はぁ…、ん……」
「イエスだな。じゃあ、お尻洗ってきて。その後ベッドに来いよ」
言いつければ人形のように言うことを聞き、トイレに姿を消す。
俺は今までやろうとして断られたリストを頭の中で思い出していた。

寝室の明かりは最大にして、服は着崩さず次元を待っていた。
十五分程経って、シャツとスラックスを身に着けた次元がドアを開ける。
「おいで」
声をかけるだけで、素直に俺に近づく。
腕を引いて中心に寝かせて、俺は膝立ちになって次元の胸の上に跨った。
まずは先ほどの続きだ。
くつろげていたスラックスから雄がそそり立ってるのを、口に入れさせた。
「噛むなよ」
「んぐッ、う、んん、んゥッ」
後頭部の髪を掴み、俺の好きなように動かす。
普段もフェラくらいはしてくれるが、俺が好きなようにやり過ぎると怒る。
だが今は息苦しさに耐えながら、歯が当たらないように口を大きく開けている。
女より中は広く、喉まで挿れやすかった。
じきに咥内の唾液が急に多くなったのを感じて、一度抜く。
「はぁっ、はー…、ッゲホ……」
軽く咳き込み、必死に不足した酸素を取り込むように呼吸を繰り返す。
口は開けっ放しで、とろとろと唾液を口の端から零していた。
「よく我慢したな、ご褒美あげるぜ」
身体を仰向けに寝かせたまま、スラックスを剥いだ。
白いブリーフは見慣れたものだった。尻の方の布を食い込ませるように寄せ、その上で布の下に指を這わせる。
「お前ってこういう下着、昔から好きだよな。俺も好きだけど、どうせならビキニにすりゃあいいのに。なぁ?」
指先で穴の縁、薄い粘膜の部分を突く。
びくりと身体は跳ねたが、次元は相変わらず俺を待っているだけだった。
言うことを素直に聞くのは都合がいいが、無反応はつまらない。
何かさせてみようかと考えて、クローゼットの奥底に隠しておいた袋を思い出した。
すぐにベッドから下りて羅紗の黒い布袋を取り出す。
「んーふふ、やっぱり取っておいて正解だったぜ」
口を拡げて逆さまにすれば、セックス用の玩具がどさどさと落ちて来る。
たまには使ってもいいだろうと買ってみたものの、次元が断固として拒否してどれも新品だ。
小ぶりなアナル用のバイブと、ピンクローター、アナルパールとよく見るものが揃っている。
「まあ最初だし、初心者用にしておくか」
あまりレベルの高いものを使えと言っても、うまく使えないだろう。
そう思ってローターを取る。
残りは脇に寄せ、ローター部分だけを次元の手に握らせる。
これくらいのものなら、次元だって使い道は知っているはずだ。
「お前の気持ちイイところに当ててみて」
俺が言うと、黒い睫毛が数回瞬いた。
自分に使えという意味に捉えるまで、しばし時間がかかったらしい。
それはそうだろう、使った経験があるとして、男ならば自分には当てない。
次元は少し迷った後、少し膨らんでいた雄に、布越しに当てる。
「そこね、オッケー」
「ッ、うあ…あッ、……あ……!」
ダイヤル式のスイッチを入れると、細かな振動が始まる。
モーターの音が無音の部屋に響き、次元の喘ぐ声とベッドの軋む音が波を持った。
徐々に振動を強めていけば、下着の中が次第に膨らんでいく。
一番イイ場所を求めて手を動かす次元の表情も、快楽で溶けていく。
だがイくためには足りないらしく、悶えるように腰を動かしていた。
「ここだけじゃダメなら、他にあるだろ?」
雄に引っ張られてより強く谷間に食い込んでいた布の下にある窄まった皺を撫でる。
ローションを取り出してそこに塗りつければ、びくりと腰が跳ねた。
「自分で挿れられるだろ?ほら、指入れて解してみな」
俺に言われるがまま、ローターを当てていない方の骨ばった手が伸ばされる。
人指し指の先は簡単に呑み込み、徐々に深く沈めていこうとする。
「そうそう、上手。奥だけじゃなくて、拡げるみたいに動かさないと挿れるときに辛いぜ」
言われた通り、上下左右に指を動かす。
円を描くように拡げるのを手伝ってやれば、喘ぎながらそれに従う。
すぐに中指も呑み込めるようになる。
普段はこの数倍太さのあるものを咥えるのだから、ローター程度なら充分過ぎるほどだ。
湿った下着を脱がせ、俺の前で股を開かせた。
「それ、ナカに挿れて」
「は……、はぁ、あ、いッ、ん、くぅ」
次元は雄に当てていたローターをナカに埋め込もうと穴に押し当てた。
入りにくかったのはほんの一瞬で、縁を越えればするするとコードを引いて呑み込んでいく。
「イけるように自分でやってみろよ」
ローターのリモコン部分は俺が握ったまま、促す。
次元は顔も勃起した性器も赤くして、穴に指を入れてナカに入ったものを追う。
淫乱な姿に唇が渇き、思わず唇を舐めた。
「ひッ、あ、ッうう……あぅ……」
前立腺の辺りに当てているらしく、びくびくと腰を跳ねさせてもう片方の手で雄を擦る。
時たま振動に強弱の波を作ってやれば、面白いほど敏感に反応した。
前立腺の方でイきかけているらしく、ぴくぴくと震える雄から先走りが絶え間なく流れていく。
穴の方もきゅうきゅうと締めつけられて、コードが動かないほどだった。
このまま絶頂に登る姿を見届けてもよかったが、そうさせなかったのは自分自身の雄だった。
言葉もかけないまま穴をなだめて、指が入る程度に脱力させる。
そして仰向けだった次元の腿を掴んで持ち上げ、完全に勃起しきった雄を当てがった。
「いッ、痛、あ、あァッ、あぐ……ッ」
指二本では解しが足りないのは承知だった。
怪我をさせないようにだけ亀頭を呑み込ませれば、すぐにローターに当たった。
イきかけていたせいかナカはもううねりを感じさせ、それと玩具の振動が相まってかなり気持ちがよかった。
雄で奥にローターを押し込まれている次元は息が引きつり、俺のジャケットの肩を掴んで必死に耐えていた。
「ひぅ、う、うぅう……ッ」
「もうちょっとだから、我慢しろよ」
押しつけるように腰を進め、蝸牛のようにのろく奥へ進んでいく。
だが、いつもは根本まで咥えられるナカが、途中で俺を押し返した。
「あぁ、あ!ひ、ひぁ……ッ」
ローターが奥に届いたらしく目の前の身体が跳ねる。
今までにない力の加わり方に、怯えるように次元が結合部を見下ろした。
「気持ちいいだろ?だからたまには使ってもいいって言ったのに、新しいもの嫌いは損するぜ」
「あァあッ」
抽出ではなく、奥をこねくり回すように腰を揺らすと嬌声が上がる。
振動が雄の先端に当たり続けると俺もイキそうになり、すぐにピストンに切り替える。
背を伸ばして次元をなるべく上から見下ろすと、ナカで軽くイったのかだらしなく口を開けて恍惚とした目で虚空を見ていた。
「俺も一回イくよ、次元」
「あうッ、う、あッ、……、だめ、だ、腹、おかしくなる」
次元が自我のあるようなことを言ったことに驚き、顔を見る。
だが自意識が戻ったというわけではなく、心からのSOSだったらしい。
ダメだと言われると、俄然それしかする気はなくなる。
「あぁあッ、あゥ、だ、め、……んぅうッ……」
「うは、それかわいーわ」
言い方につたなさがあり、たまらず腰の動きを早める。
奥を突き込むように腰を打ちつければ、次元は喉を逸らし絶頂に登る。
奥を虐められて辛いのか、涙が数滴零れたのも俺が飲み干し、なかったことにする。
「はッ、ふ、ぁ……ア、ンンンッ」
そして予告もなしに、縁がぎっちりと雄に食いつく。
ナカは不規則に痙攣し、次元は口を開けたまま背骨をしならせてシーツに頭の先をつけた。
それでも次元の声はなく、呼吸さえも今はできていない。
「ッ、次元、締め過ぎだって、の……!」
挿入が深かったせいで、俺は根本近くを締められている状態だった。
出すに出せない状況で、堪えながら縁の締めつけが緩むのを待つ。
「あ……あ……ァ……ッ」
「はぁッ、やっとかよ……ッ」
ふっと締めつけがなくなり、その瞬間にナカに白濁を噴き出す。
堪えただけあり、俺も気持ちがよかった。
半分放心している顔を見ると、次元も呼吸を思い出したようでぜえぜえと荒く息を吐いていた。
雄を抜き、震えていたローターも引き抜く。
それと一緒に白濁が掻き出される光景は、出した直後でも興奮できるほど淫猥だった。
脱がせていなかった次元のシャツにも白濁が飛び散り、水の染みを作っていた。
「淫乱な次元ちゃん、次は何しようかね」
また玩具を使ってもいいが、ローターでこれでは、他のものはすぐに気絶しそうだ。
それでは芸がないし、俺も愉しめない。
「お前が一番怒ったの、何だったけなァ」
ノーマルとほんの軽いSM程度のものしか怒らなかったものはない。
コスプレも緊縛も、その他もろもろもしようとして散々抵抗されて諦めた。
その中で一番次元が抵抗したのは……。
「やっぱりアレかね」
俺はベッドから下り、リビングに戻ってあるものを持って来た。
最新式の俺のスマートフォンで、カメラの画質はデジタルカメラにも劣らないものだ。
試しにカメラの画面にし、白濁塗れの淫猥な姿の次元にシャッターを切る。
「……?」
次元はフラッシュが眩しかったらしく手で目に透かしを作った。
無論嫌がりはしない。
前に悪戯で撮影した時は、写真を消すまで足に四の字固めをされて膝をやられた。
「ダメだぜ、隠しちゃ」
部屋は明るい。
フラッシュを切り、その次はシャッターを切る音だけが響く。
「写真写りいーね、お前。どうせ俺しか見ないんだし、気にすることないのにさ。どうして嫌がるかね」
絶頂直後の姿はたまらない光景だ。
画面の中にあると、より猥雑さが増すようにも思える。
写真だけじゃなく、動画も撮りたくなってきた。
「次はお前が俺を愉しませる番だぜ。ほら、乗れよ」
汚れたシャツを脱がせ、次は俺が仰向けに寝転ぶ。
腰の上に乗せて、先ほどよりかは収まった雄を尻に擦り当てる。
カメラは動画に切り替え、下半身の方を映す。画面の中で顔は収まりきらなかったが、口元しか映っていないのも逆に趣がある。
「自分で挿れて、好きに動きな」
「……、はあ、ん……ッウ」
解れた穴に雄を挿れようと腰を浮かせたが、白濁も潤滑液も乾いてしまったらしく痛そうに眉を潜めた。
チューブを渡してやれば、命令せずとも自分で濡らした。
そして跨り、先ほどと同じように奥へ埋めてく。
今度は蠢くローターがないだけ、根元まで呑み込んでいた。
「は、ああ、あ、ン……ッ」
激しくはなかったが、次元は腰を上下に揺らし始めた。
なかなかにいい景色だと、角度を変えて天を仰いで喘ぐ顔も映した。
汗をまた吹き始めて、肌に水のきらめきが目立ち始める。
自分で調整ができる騎乗位は激し過ぎず、かつ好きなだけイイ場所に当てられるおかげか雄も勃ち上がっていた。
締めつけも絶妙で、俺もまた興奮してくる。
「乗りこなしてるなぁ、次元。お前自分で動くのも嫌いじゃないんだろ」
「んァッ、あ……!」
腰の骨をなぞるように撫でてやると、それにさえ感じるのか喘ぎが大きくなる。
起き上がって顔を間近に近づければ、次元の方からキスをしてきた。
普段もここまで素直ならいいものだと考えながら、しばらくつき合ってやる。
その後、また正常位に戻るように押し倒した。
「上手だったぜ。次は俺様が動いてやるよ」
言いながら、動画を起動させたままの携帯を握らせた。
「しっかり映して、離すなよ」
レンズが繋がった場所を写すように誘導し、また広く脚を開かせた。
「んッ、ん、んんゥ……ッ」
ゆっくりと引き抜き、同じようにゆっくりとナカに埋めていく。
薄赤い穴の縁はすっかり伸び、女の襞のように俺の雄にまとわりついてくる。
これを撮影してから携帯を渡せばよかったかと思いながら、おもむろに強く腰を叩きつけた。
次元は悲鳴を上げたが、健気に手に持った機械を離さまいと悶えていた。
「ふふ、自分が犯されてるのを自分で撮るなんて、最高にいやらしいな」
持たせたのは俺だが、辱めるように言う。
掴んだ脹脛を持って両膝を肩にかけ、激しめに律動を再開した。
「あぅッ、う、うぅ……ッ」
「次元、俺の名前呼んで」
ギシギシとスプリングが軋む音を立てながら、頬を撫で、唇に触れた。
次元は素直に、ルパンと口にした。
「そう、俺がいいって言うまで、呼び続けろよ」
「ひッ、ル、パン……ッ、ルパン……!」
「次元、いい声だぜ」
セックス中に名前を呼ぶというのは、料理に例えるなら香りづけだ。
互いの存在の香りが強まるほど欲望を引き立てられる。
「あァッ、る、るぱ…あ、もう、……ッ」
奥を狙い撃ちにすれば足がびくびくと痙攣を始める。
もうイキそうらしい。
それはいいのだが、ピキ、と何かが割れ欠けるような音が聞こえて律動を止める。
「おいおい、壊しちゃダメだろ?」
握力の強い次元は、快楽の悶えを携帯に注ぎ混んだらしく画面に軽く亀裂が入っていた。
たしなめるように声をかけた後、手から離させて次元の頭の横に置いた。
無論動画の録画と録音は切っていない。
「イく時、声出せよ」
「うう、る、ルパン……」
それだけを告げて、身体を折りたたむように腰を上げさせた。
上から叩きつけるように腰を落とすと、奥を抉るように雄が当たる。
ベッドの軋みは早くないが、一突き一突きの重さは正常位よりかなり強い。
「ひ、あ、いッ、う、あぁー……ッ!」
ぐりぐりと奥をまた捏ねてやれば、声を素直に出して雄を締めつけてきた。
だが先ほどよりかは強くなく、ひたすら収縮を繰り返す。
射精を伴わず、ナカだけで絶頂を迎える時の反応だった。
顔を見てやれば、唾液をシーツにまで染み込ませて、瞬きもほとんどない目で俺を見つめていた。
瞳が小刻みに揺れ、数回名前を呼んでも反応はなかった。
「じげぇん、二回でぶっ飛ぶなよ。まったくお前ってコッチの耐え性ねーよな」
返事をしない頬を、軽く二度叩く。
だが戻ってくる様子はなく、仕方なく一度抜いた。
俺はまだまだ元気で、勃起したまま煙草に火をつける。
そして放置していたスマートフォンを拾い上げて、アルバムを見た。
あまり枚数は撮れていなかったが、下手なピンク写真より猥雑でいい画ばかりだった。
動画はパソコンでDVDにでも焼いておこう。
そんなことを考えながら、一本を吸いきった。
次元の方を見たが、様子はさほど変わっていない。
もう一本だけ待ってやるかと、オイルライターの歯車を回す。
だが運悪くオイルが切れたらしく、火花しか出なかった。
サイドチェストを漁ると、コンビニで売っているようなスライド式のライターがあった。
液化ガスの残りは少なかったが、一本ならこれでしのげるだろう。
カチン、という音を三回繰り返し、やっと灯った。
「……あ?」
それとほぼ同時に、次元が声を出した。
戻ってきたのかと顔を見ると、俺を見つめる。
「気がついた?それじゃあ続きするか」
「は?続きってなんだよ……」
明確な言葉に、俺は咥えていた煙草が落ちそうになった。
まさかさっきの音で催眠が解けたのか。ひとまず煙草を消して、次元の様子を伺う。
「じ、次元~~、まったく飲み過ぎだぜ。お前から誘って来たんだろ?」
ごまかすが、ベッドの脇に散っていた玩具や俺が手に持っていたものを見て、次元がわなわなと震えだしてしまう。
「て、めえ!」
「わー!暴力反対!」
拳が腿に落とされ、痛みで跳ね上がる。
次元は俺が手に持っていた携帯を奪おうと食らいつくように縋りついてきた。
「そいつを寄こせ!ぶっ壊してやる!」
「勘弁しろよ、まだローン残ってるし、その他にも仕事で使うもんとか色々入ってるし!」
奪い合いになり、俺は手から平たい機械を取りこぼす。
それは床に滑り、平行に回転しながら部屋の隅へ行ってしまった。
それを追いかけて次元も起き上がったが、二度の絶頂の後のせいか、いつもの俊敏さはなかった。
捕まえるのは簡単で、そのままベッドに突き飛ばしうつ伏せにさせる。
「くそッ、おい、離せくそ野郎!」
「ぜってえイヤ~」
「ッ、あ、やめろッ、挿れんなッ……!」
「そいつもお断り、だッ」
「あ、ひ、ぎッ……!」
暴れる身体に圧しかかって、柔らかい穴に雄を埋める。
加減もなく叩きつけたせいで、次元は悲鳴を上げて硬直した。
そのまま、先ほどよりも何倍も激しくピストンを次元の身体に食らわせた。
こうなったら、もう立てなくなるほど犯すしかない。
そうしなければ次元は暴れて手がつけられないだろう。
「ッ、く、そッ、……あ、やめ、ろ……ッ」
しぶとく抵抗するので、手を両方とも捕まえて背中に押しつけた。
そうなると、うつ伏せでは起き上がることも身体の向きも変えることもできない。
「う、この、覚えてろッ、あ、ぐッ……」
なんとか顔を横向きにしていた次元が、片眼で俺を睨む。
本気で怒っているらしく、眉が強く寄せられているのもわかる。
確かに後が怖い。
しかし、今やめたところで結果は同じだ。
それなら、今日の記念だけは破壊を逃れるようにしておきたい。
「怖い怖い」
優位につけたのは幸いで、余裕を持って返す。腰も休ませる暇もないほど動かせば、すでに二度絶頂に達している次元は抵抗の力を弱めていく。
それでも万が一の反撃に備えて手の拘束を緩めることなく、音を上げるのを待つように腰を叩きつけた。
バックで突く時の、尻と腰の肉がぶつかり合う卑猥な破裂音を何度なく立て続け、俺もだんだん限界が近くなってくる。
「あ、あ、もう、やめろ、やめろって……苦、し……る、ルパンッ……」
「そんなこと言ってさァ、やめたら俺のこと殴る気だろ」
勃起したまま気絶は勘弁だとつけ加えて、前立腺辺りを狙って浅く出し入れをする。
きゅうきゅうと締めつけが強まって、次元も身体を跳ねさせた。
「いッ、イ、っちま……あ、嫌だ……ひッ、い、……ッ!」
びくん、と背中を丸めるように次元の身体が数回跳ね上がり、数度震えてまたシーツに落ちる。
どうやら前で出したらしいが、その余韻の収まりを待たずに腰を引き寄せて奥に突き込んだ。
「ひいッ、あ、うう……ッ、う、もう、無理だ、ルパン、頼むからッ」
「お前の意識がぶっ飛んだら、やめてやるさ」
必死に許しを乞う姿に煽られ、俺は口の端が上がった。
仕事の時には生意気なところが多いが、この時だけは俺には勝てない。
「い、いやだ、るぱ、あうッ、ぅうっ…、も、しねえ、から……ッ」
「嘘が上手だなあ、次元。お前が悪いんだぜ、自分から誘って気持ちよくなってたくせに俺に怒るなんて」
「あやま、る、謝る、からッ、ぬ、抜いてくれ……んァ、あん、ンンゥ……!」
揺さぶるたびに謝る次元にはかなり興奮させられた。
もしこんな状況でなければ、すぐに種づけてやるほどに。
それでも律動は緩めず、雄に触れて虐めるために扱いた。
「うあッ、も、やだ、やめろ、よぉ……」
力なく言うが、雄は喜んで震え始める。
激しいセックスと刺激で、次元も相当なところまでキていた。
「く、くる……あ、アッ……ひ、ッ!、ッ、あぁっ……」
次元がぶるぶると震えながら喘ぐと、びしゃりと水を撒くような音が聞こえた。
見えないが、潮を吹いたらしく急にぐったりとして次元は上半身をシーツに沈めた。
そこで一度止まってやり、わずかな芯だけ残して震えていた雄に触れる。
予想通り、水っぽいそれを吹いたらしく雄の先はしとどに濡れていた。
「も、もう、ゆるして、くれ……」
限界らしく、泣きが入った声で次元が呟いた。
だが、俺は今日一度しか出せていない。
普段なら口で抜かせたり、自分で処理をする。
しかし今日は、俺も興奮し過ぎていた。
どちらにも妥協する気はなく、抜かないまま横向きに寝かせて見下ろす形で腰を進めた。
「言っただろ、お前が気絶したらやめてやるって」
「あうッ、う…あ、ん…ゥ……」
次元は、前も後ろもイく時には脱力してしまうが、潮吹きが一番力をなくす。
全身の力が魂を抜かれたように放り捨てられてしまい、喘ぎ声さえ力なくなる。
締めつけの方も緩くなるために、通常であればこんな時にナカを犯したりはしない。
「さすがに緩いな。次元ちゃんもうちょっと頑張ってよ。そうしたらこれで終わりにしてあげるから」
頬を叩き、耳元で囁く。腹に力を込めろと、ヘソの下を強く押した。
「う、うぅ……」
ぐっと次元が腹の筋肉に力を込めると、ナカの圧が若干増す。
俺自身も腹を押してやり、狭いナカを亀頭で擦り自分の絶頂を求める。
もとより限界は近かったのもあって、ぶるりと身震いが起きる。
圧しかかるように身体を倒し、精液が尿道を通っていくのを感じながら何度も押しつけた。
「はぁー…ッ、次元、すっげぇいい……」
ぐちゃぐちゃと音を立てる縁を揺らし、精液がナカで溜まっているのを知らせる。
「はぁ、は……ッ、はっ……」
次元はうっすらと目を開けていたが、その表情は催眠をかけた時のようにとろけて、何も見てはいなかった。
結局俺が出したのは二回だが、次元は何度イったか、俺にもわからない。
今も絶頂の余韻が引かないらしく、時折縁が萎えた雄を懸命に締めつけていた。
「はあ、さすがに、疲れたわ」
ほぼ連続でここまでやったのは俺にも効いて、雄を抜いて天井を仰いだ。
そして床に転がっている携帯を、次元が動けない間に隠す場所を、考え始めた。


夜明けの頃、何かが落ちる音がしてふと目が覚めた。
隣を見ると、寝ていたはずの次元がいない。
ベッドの向こう側を覗き込むと、昨日着せてやったパジャマ姿で匍匐をしている次元がいた。
「ベッドから落ちるなんてお前らしくねえなあ」
「来るな!」
次元が突然怒鳴り、壁に手を突いて半身を起こした。
「てめえ、昨日の携帯どこに隠しやがった」
「あー…アレね」
覚えてたか、と俺は顎を掻いた。
「教えてやってもいいけど、その様子じゃ無理だと思うな」
腰が立たない状態では、隠し場所がわかっても開けるまでに相当苦労するだろう。
「じゃあ俺の銃はどこだ」
「……さあ?」
今の様子では確実に俺にぶっ放す気だ。
それを避けるために、昨夜のうちに拳銃も携帯と同じ場所に隠していた。
次元は俺の言葉を聞くと、顔を睨み続けた後にそのままどこかへよろよろと去ってしまった。
自分で探す気らしい。
しばらく放っておくと、リビングの方から物が倒れたり何かが割れたりと暴れる音が響き、さすがに心配になって追いかけた。
「おい次元、落ち着けって」
リビングには観葉植物やその他物が隠せそうなものを手当たりしだいに破壊している次元がいた。
肩に触れると、払うように押し退けられた。
「怪我するぜ、一旦冷静に……」
「ふざけんな!散々人を嬲っておいて、くそ、てめえなんか死んじまえ……」
ガシャン、と手元にあった目覚ましを壁に投げつけて、それから先は何も言わない。
その姿を見て、やり過ぎたらしいと気づいた。
「次元、まあ俺も調子に乗り過ぎた、ってのもあるけど……そんなに怒るなよ」
肩を抱くように手を回し、俺が悪かったから、と素直に謝った。
「嫌がらせでしたつもりはないぜ。てか、お前とえっちなこと、ノーマル以外もしたいってそんなにダメなことかね?愛してるからいろいろしてみたかったってだけだよ」
「うるせえ、ダッチワイフみたいにしやがって」
体力が尽きたのか、嫌がる素振りは見せても肩の手は跳ね退けない。
「どうしたら許してくれる?」
「……携帯寄こせ、あと銃もだ。あのペンデュラムも出せ」
「え~全部じゃん……」
俺が思わず言うとギロリと睨まれた。
どうか撃たれませんように。
そう言いながら、ドライバーを荒れた部屋の中から探し、リビングの隅にあったコンセントカバーのネジを外した。
部屋にもよるが、ここにはだいたい壁と壁との間のわずかな隙間がある。
そこから携帯とマグナムを取り出し、ペンデュラムは昨日脱いだジャケットの中を探って拾う。
「ほら、お求めの品だぜ」
まず携帯から渡すと、次元はパジャマのポケットにしまった。
ペンデュラムも同じようにしまう。
最後に銃を渡してすぐ、腿辺りを撃たれるかもしれない、と警戒するようにそろそろと後退する。
しかしそれも、腰に差した。
「あり?撃たないのけ?」
「撃つも何も、弾すり替えただろ。持てばわかる」
次元の言う通り、リボルバーの弾はすべてダミーだ。
引き金を引いたところで、弾は出ない。
「ぼーっとしてんな、クソ猿」
寝る、と俺の方へ身体を傾けられた時、ベッドに戻せという意味だと気づく。
「おやすい御用」
すぐに傍に寄り、腕に抱えてベッドまで連れて行ってやった。
そして隣で俺も寝ようと寝転んだ瞬間、思い切り蹴り出された。
「部屋、片付けておけよ。起きて終わってなかったらこいつを叩き壊すからな」
そう言って宝石を見せ、そのままそれを抱えて反対を向いてしまった。
これだけ怒るのも珍しいが、それだけやった覚えもあるので素直にリビング戻った。


夕方頃だろう。
俺はようやく立って歩けるようになった。
リビングへ出るとルパンはうたた寝をしていた。
マヌケな顔で眠っているのを見るとまた怒りが沸いてきたが、それより先に俺にはやることがあった。
キッチンに向かい、携帯をポケットから取り出す。
最近のスマートフォンと呼ばれる携帯は、昔と違って中身を見るのに暗証番号の打ち込みを求められる。
一度寝て起きてからそれと格闘したが、結局開かなかった。
中に何の写真があるかなど、想像にたやすい。
以前、奴がふざけて裸の俺を撮ったので同じベッドで寝る時は持ち込み禁止にしていた。
それなのに持ち込んだということは、何か撮ったに違いなかった。
中身を見たいとは思わない。
願わくば、未来永劫見ないようにしたかった。
幸い俺の携帯は寝室にあり、奴に悪戯などはされていなかった。
それでこの家の中で、確実に破壊する方法を調べた。
銃の台尻で壊そうかとも思ったが、以前どこかで粉砕した携帯からでもデータを取り出せた、と聞いたことがあった。
それに、そもそもどこがデータの記憶部分かもわからないし、音を立てれば奴に止められてしまう。
俺は携帯を、電子レンジの中に放り込んだ。
そしてたっぷり三〇分のタイマーをかけ、スタートボタンを押した。
ほんの数秒で、煙が立ち始める。
そして火花のようなバチバチという音も鳴り始めた。
「んあ、次元……なんか食うのか?」
音を聞いて、ルパンがソファーから俺を見た。
「いや、こいつは無理そうだな」
「一昨日の残り物か? 酷い臭いだしぜってえ食えねえ……あ?」
ルパンはようやくソファーから跳ね起き、レンジの前に張りついた。
「ぎゃー!ばか!ここまでするかフツー!?」
ガラスの向こうでは平たく白い携帯がまだらに黒くなっているのが見えた。
ルパンが慌ててスイッチを切り、扉を開ける。
見事に画面はバキバキに割れ、中の基盤は膨らんでどう見ても修復は不可能だった。
ざまあみろ、と俺は吐き捨ててキッチンを去った。
「あ~あ~俺のお宝写真ちゃん……」
鍋掴みで見る影もない携帯を持ち、肩を落とす。
あからさまにしょげていたが、それも無視してソファーに座った。

数週間後、俺たちはダイヤモンドの脈を見つけた。
そしてある分だけの金で土地を買い込んで、業者に買い取らせた。
脈の広がる面積は狭かったが、権利書にはかなりの値がつき、人生を三周しても遊んで暮らせるほどの成果になった。
今住んでいるのはその成果で買った別荘で、フロリダのビーチに近いその別荘にはミニシアター、プール、ビリヤードやダーツの並ぶ遊技場、ワインルームがついていた。
小さな町ともいえる広い屋敷。
その中の、ルパンの寝室とは遠く離れた部屋の中で、俺は金づちを持っていた。
ようやくこの憎たらしい宝石ともおさらばだ。
タオルで挟み、ほぼ粉になるまで叩き潰した。
これをルパンの野郎にぶかっけてやる。
そう意気込みながら広いアジトを、ルパンを探して歩き回った。
しかしやたら広いせいで、なかなか見つからない。
トイレも含めすべての部屋を回り、プールもガレージも見回った。
それでもルパンは見つからず、散歩にでも行ったのだろうかと屋敷の中に戻った。
そして、俺はこの広大な屋敷の中で、まだ一度も踏み入ったことのない場所を思いついた。
この屋敷には広い屋上があるが、その端に短い鉛筆のような形に作られた物置部屋があった。
その屋根裏だけは、まだ見ていない。
おそらくそこだろうと屋上へ向かい、該当の部屋に入ると天井には思った通り梯子が下りてくるタイプの扉があった。
フックが見当たらず、わざわざガレージまで戻って似たものを持ち帰り、梯子を下ろした。
中を伺うと、予想通りシャツを着た背中が見えた。
「こんなところに居やがったのか。何してんだ?」
俺が声をかけると、驚いたように飛び上がって俺を振り返った。
「あ、ああ……次の仕事の仕込み……みたいな?」
そう言って奥から戻ってきて、もう出ると言って俺を登らせないようにした。
怪しいにもほどがある。
どけ、と屋根裏に入り込んでみると、何が仕事の仕込みなのか、ティッシュが山盛りになったゴミ箱とイヤフォンつきの閉じられたノートパソコンがあった。
屋根裏は普通かび臭いが、この空間はそれとは違ういやな臭いが混じっていた。
「お前よぉ、思春期のガキじゃねえんだから普通に自分の部屋でやれよ……」
呆れて、俺はすぐに屋根裏から出た。
ルパンはほっとしたような顔で、そそくさと梯子を下りてすぐに蓋をした。
「さすがにね、昼間っからは自分の部屋でもやりにくいっていうか、何と言うか」
「どうだっていいよ、てめえのシモのことなんざ」
それより今から俺からのプレゼントだ、と粉にした翡翠を奴の頭に振りかけた。
「ああ!ひでえなァ、こいつは不二子にプレゼントする約束だったんだぜ」
「あの女に悪用されてたら世界が滅んでたな。俺に感謝しろよ、ルパン」
俺はやり返せたのが嬉しく、上機嫌で笑って自分の部屋に引き返した。



END