excess お題箱より

唇が重なった時、それはどちらからでもあった。

仕事の後の興奮の高ぶりが酒でも抑えられない程強く、ぬるついた舌を絡め合わせるほど吐息が熱を孕んだ。

「ん、嫌じゃないんだ」

あいつがにやにやと笑いながら口を聞いたのを、俺は噛みつくようなキスで塞いだ。

ソファーに座った身体に跨り、余計な事を言わせないようにと口付けだけに集中する。

その内に、するりと細い指が俺の腰を撫でた。

「次元ちゃん、いい?」

「何が、だよ、ン」

「させてくれんのかって聞いてんの」

露骨な欲情を表すようにその指が尻に下り、スラックスの縫い目をなぞる。

「だから、何をだよ。女役か?男役か?」

わかりきったことを敢えて聞くのは、黙って女役をやる気はないという意思表示だった。

「俺様を男にさせてくれるんだろ?」

挑発的に返し、俺の頭を押さえ込んで深く口付ける。

「ン、ンッ、ん…」

強引で我儘な力に煽られて、俺は随分前に男に抱かれた時のことを思い出す。

一度目は戦場で。あれは通過儀礼みたいなものだった。二度目は見知らぬ男のアパートで。今と同じで、仕事で興奮して誰とでもいいからヤりたかった。

解し方を思い出せるだろうかと考えている間に、シャツのボタンは全て外されてベルトに手がかけられていた。

「はっ、ン、んン…」

なされるがまま、口元のセックスに夢中になるフリをした。

下着をずらされて、半勃ちになっていた雄に指が絡んで身震いする。

「は、可愛いじゃん」

余裕のない声がキスの合間から聞こえる。

こいつも誰かと繋がりたくて仕方がないようで、少しだけ勝った気分になる。

だがその気分もつかの間、ズボンが腿までずり下げられた。

「う、あ…ッ」

ぬるついた液が穴に触れ、腰が引いた。

「やめろッ…自分で、でき、んむッ」

さっきよりも激しいキスで俺を黙らせ、指を無理やりナカに差し込んで動かす。

女相手にやった経験があるのか、やたら手馴れていた。

忘れていた開き方を思い出し、俺は深く息を吐いて汗ばみ始めた首に縋り付いた。

ここまで来ておいて、途端に怖くなる。

結局俺はただ経験があるだけだ。男好きでも何でもなく、見知らぬ快楽は知らないでいたい。

今すぐやめたい気持ちになるが、日和ったのを悟られたくなく、そこじゃないと耳打ちする。

「じゃあ、ここ?」

「ひ、ば、かッ…痛、ぇ」

ぐりぐりと前立腺を押されて背筋にぞわぞわと熱された快感が走る。それでも素直には言わず、下手くそと悪態を吐く。

「痛いんだ、そう」

あいつはもう俺が後退りしたいのを感じ取ったのか、逃げられないように腰を強く握った。

ナカに入っていた指がバラバラに動き出し、もういつでも入れるようになったことを示す。

「じゃ、これはもっと痛いかも」

手で頭を下げられた時、剥き出しになった男の股間を見る。

その瞬間、俺は無意識に腰を引いた。

「ありえ、ね」

前に風呂で見た時は、一般サイズといった大きさだったそれが別物のように膨らんでいた。

ガチガチに昂ぶったソレは、長さも太さも俺とは比べものにならない。 

「んっ、う、ルパン、そっちは、使うな」

何とかして指を退かそうと手首を掴んだが、抜く気はないと言うようにさらに奥に入ってきた。

「入るって、女でもこっちに挿入らなかったことないぜ」

それは膣には入らなかった女がいるという意味だろうと、俺は冷や汗を掻き始める。

「口でやってやるから、それでいいだろ」

身体を離そうと腕を突っぱねる。

だがその力を利用されて、ソファーの上に寝転がされた。

腿を掴まれて股を開かされた時、恐怖の緊張がピークに達する。

「ばっ、嫌だ、離せ!」

「今さらそれはないでしょーヨ」

「ひ」

解された穴に切っ先を擦り付けられて息がひきつる。

逃げられないとわかっていても、穴を締めて抵抗した。

「ダメだって、力抜いて」

戸渡の筋をなぞられ、何度か押される。少し萎えた雄も宥めるように擦られ、だんだんと抵抗が弱まってしまう。

「そのまま、息吐いて」

そして嫌だと言う暇もなく、切っ先でナカを抉られるように押し広げられるのを感じた。

「うあァッ…あ、あぐ…ぃ、〜〜〜ッ!!」

「きっつ……食いちぎられそ」

ローションで解したとは言え、挿入したことのない太さに身体が受け入れきれない。

痛いというより、壊れるという感覚に脳が思考を停止させる。

ルパンは一度抜いたが、ローションに塗れさせた雄を再度挿入して、また押し込んだ。

それを何度繰り返したかも数え忘れるうちに、だんだんと苦し過ぎる圧迫感が薄まっていった。それでも凶器みたいなそれで犯されるのが怖くて、俺は何度もやめろと口にした。

「こんなにとろとろなのに、そんな勿体無いことできるかよ」

「ひ、い…ア、あっ、あ、グ…!」

根元まで押し込まれ、息が止まる。

奥に突き当たる程深く侵入され、頭の中は徐々に白んできた。

「じゃあ、動くぜ」

「はぁッ、は、あぅ…」

折りたたまれた両膝の裏を掴み直された時、俺は完全に自我が飛んでいた。

「ぁあッ、あ!ヒ、ぃ…ッ、うァあ…!」

腰を引かれる度、亀頭が肉壁を引っ掻いた。

そして押し込まれる度、奥に突き当たって重く鋭い衝撃が全身に走った。

抵抗することさえ出来なくなって、濁った喘ぎ声を出すだけになる。

「あ"ッ、アぅ"、る、ぅうッ"」

「萎えちゃったね、仕方ないか」

ルパンは他人事のように言いながら萎えた俺の雄を掴み、軽く擦った。

それでも快楽を拾うことは出来ず、次第に声が出なくなる。

詰まった息ばかりになって、自分の視線がどこを向いているのかも意識できなかった。

「次元? おーい、聞こえてっか?」

頬を軽く叩かれても頭が揺れるだけになった俺を見兼ねたのか、ようやく腹のナカのものを引き抜いた。

「戻ってこいよ、次元」

優しげに口付けて、髪に指を通して頭を撫でてくる。

「……殺す気、かよ」

意識が戻ってくるのと同時に、アルコールが抜けた後のような疲労と倦怠感が俺を襲った。

「ちょっとだけな」

あいつは俺が口を聞いたのを見て、ふざけて返す。

そしてまだ勃っているそれのまま、トイレに消えた。


しばらくして戻ってきた頃、俺はシーツを身体に掛けるだけで他には何も出来ず転がっていた。

押し広げられたナカが元に戻ろうと蠢いて、腹の中にまだ何かいるような不快感が、絶え間なく俺を襲っていた。

「だいじょぶ?」

呑気に聞いてくるのに苛ついて、枕を猿顔に向かって投げたが避けられた。

「怒るなよ。最初はお前も乗り気だったくせに」

「一言もいいなんて言ってねえだろ!勝手に挿れたのはお前だろうが」

寄るなとシーツに包まりベッドの中心を占拠する。

だがあいつは縁に腰掛けて、悠々と煙草を吸い始めた。

「ま、毎日やれば慣れるって」

さらりとそう言い、煙草を咥えたまま立ち上がる。

そして俺が逃げようと思った瞬間、足首に冷たい金属の輪がかかった。