次元大介の鎮魂歌 for Inflexible heart -1

次元大介の鎮魂歌 for Inflexible heart

<1>

思わぬ男と仕事をした。
今まで毎日のように熟してきた殺し屋の仕事ではなく、泥棒という仕事を。
俺が何の覚悟もなく出した予告状に対して、奴は確実に、そして鮮やかにお宝を盗み出してみせた。

薄青のリングケースに入れられたブラックダイヤがリビングのテーブルに乗せられているのを眺めながら、俺は煙草を吸っていた。

仕事の晩から一週間、俺はまだ奴のアジトに居た。
元々根無し草だ。
出て行くと言っても先も金もなかった。
じきに別の殺しか用心棒の依頼が来るとのんびり構えていたのもある。

奴は日中何処かに出かけ、俺は何をするでもなくブラウンのソファーの上に寝転がって居た。

あの男は、次の仕事でもまたダイヤを狙うなどと言っていた。
日中外に出ているのもその下調べなのだろう。

奴と俺の吸い殻が溢れる灰皿に、まだ火の点いた煙草を押し付けて揉み消す。
もう一本吸うかと箱を開けたが、残りはたった1本しかなかった。

左腕の時計は既に19時を指していて、買い物に行くかと立ち上がる。
都心に近い高級マンションの、洒落た間接照明の灯る廊下を出た。

今まで居た部屋も全て備え付けの高級家具がブラウンと白で揃えられていて、ホテルさながらの豪華さだった。
よくもまあこんな贅沢な部屋を持ってるもんだと最初は面を食らったが、奴はへらへらして今は金があるからとのたまった。

エレベーターからロビーへ出ると、2階を吹き抜けにした高い天井にシャンデリアがぶら下がっていた。
向かいからここの住人らしい二人のご婦人方が俺を訝しげに見て、そそくさとすれ違う。

ひそひそと何かを話す声が後ろから聞こえて、
浮いちまって仕方ねえなと帽子を傾けて外へ出た。
空からは小降りの雨が降ってきていた。

そういえば、ニュースじゃ梅雨入りしたとか言っていたような気がする。
傘も買うようだと帽子を下げて歩き出すと、目の前に革靴の足が目に入った。
黒いエドワードグリーンの革靴に、薄茶色のスラックスは絶望的に合わない。

「…こんなところで何してる」
「それはこっちの台詞だ、次元大介」

視線を上げると、嫌味なアルマーニのストライプスーツを着たマフィアが、バーバリーの傘を差して俺を見下していた。

古い顔見知りに舌打ちをする。
チグハグなブランドで揃えるこいつの名前を俺は知らず、周囲ももっぱらブランドとあだ名をつけて呼んでいた。

「相変わらず趣味の悪い着合わせしやがって」
「年中葬式帰りのお前にファッションは分かるまい」
男は反撃の言葉を吐き捨て、ポケットからはみ出していた紙切れを取り出した。

「仕事の依頼だ。報酬は前払いが2割、契約満了で残りを渡す」

紙切れを広げ、俺に見せる。
中国語でタイプされた文字を読むと、どうやら用心棒契約をしろと書いてあった。

「ボスに借りた恩を返せ」

そう言われて、俺は自分の顎をさすった。
用心棒をする事自体は何の問題もないが、奴が、ルパンが言っていた仕事もある。

新しい上に危険な仕事と、手慣れた確実な仕事。
どちらを取るべきかは明白だった。

「早く答えろ。そうしないとクリーニング代をお前のギャラから引くぜ」
「うるせぇな。明日返事をしてやる、もう帰れ」

しかし1度組んだだけとはいえ、声をかけられたからには無断でよそを受ける訳にもいかなかった。
俺は犬を追いやるように手を振り、男の隣をすり抜ける。

雨は次第に強さを増し、地面が砂嵐のような音を立て始めた。


-------------


俺が買い物から帰った時、奴は一人がけのソファーに座って地図やら設計図やらを眺めていた。
トレードマークのグリーンジャケットは雨に濡らしたらしく、ソファーの背に掛けられている。

「おかえり〜」

リビングへ入ってきた俺に袖をまくった手だけを振り、目線を下に向けたまま書類に見入っていた。

「なんだ、こりゃ」
「今度のオシゴトだよ。情報集めるのに手こずっちまったが、ようやく揃ったぜ」
「ちょうどいい、話がある」

俺は立ったまま、自販機で買った煙草を開けて一本を八重歯でつまみ出した。
奴はあらなぁにと答え、顔を上げる。

「この仕事、降りるぜ」
「あ?何でだよ」

猿顔を俺に向けて、不機嫌を隠さない声色を出す。

「別の仕事が入ったんだ。金もねぇし、そもそも俺は盗みに加わるなんて一言も言ってねぇよ」
「じゃあここ一週間、俺様のアジトに居た理由は?」
「お前が出てけと言わなかったから、それだけだ」
煙草に火をつけ、壁に背を当てて寄りかかる。

「野良猫みたいなこと言うじゃねぇか。1週間分のホテル代くらいは返して欲しいぜ」
「借りはいずれ返す。そんな長い期間の仕事じゃねぇ」

言いながら煙を吐くと、ルパンはジロリと俺を睨んだ。

「いずれっていつだよ」
「…こっちの仕事が終わった後でいいだろう。それなら少しは付き合ってやる」

優男に睨まれて怯むほどのタマじゃないと睨み返すと、ルパンは舌打ちしてソファーに踏ん反り返った。

「チェッ、お前込みで作戦練ってたのにおじゃんだぜ。ところでよ、その仕事ってのは殺しか?」
「用心棒…と言ったら体はいいが、まあそんなようなもんだ」

殺しねえ、と男も煙草を取り出し火を灯す。
ジタンのクセのある香りが、俺の煙草の匂いを打ち消して漂ってくる。

「ふーん、それってもしかして赤龍って奴からの依頼?」
「…何で知ってる」

雨の中やって来た男、あのチャイニーズマフィアのボスの名前が即座に出てきたことに驚く。

「別に、感だよ」

奴は薄い唇に煙草を咥えたまま、書類をまとめ始めた。

「お前の好きにしろ。でも、後悔するなよ」
「言われなくても勝手にするさ」

煙草を咥えたまま部屋を出る。
合鍵にと貰っていた鍵を玄関前の白い花瓶に落とした頃、また後ろで声がした。

振り返ると奴がリングケースを手に持ち、ほらよと投げてきた。

「…こいつはお前のもんだぜ」
「いいから持ってけよ。お守りになるぜ」

言うだけ言ってリビングに戻っていく。
こんなもん荷物になるだけだと返したかったが、結局懐に入れた。

ドアを閉めたその瞬間、玄関に立てかけていたビニール傘を取り忘れた事に気付いた。

だが、もうこのドアを開ける気は無かった。

ロビーを出ると、うっとおしい雨は相変わらず降り続けていた。



<2>

ルパンがここ最近アジトにしているというマンションへ、とびきり高いプラダのヒールを履いて歩く。
ワンピースはカルバンクラインの新作で、アール・ヌーヴォーな色合いがお気に入り。

雨のせいで濡れてしまうのが嫌だったけど、この時期の日本では怒っても仕方のないことだった。

傘を気まぐれに回して雨水を払い、蜃気楼のように輝くマンションを見上げた。

つい先週ブラックダイヤを盗んだばかりだというのに、ルパンはもう次の獲物を狙っていると言っていた。

しかも、そのお宝は真紅の金剛石。
この世界で、もっとも貴重な赤い色を灯したレッドダイヤモンドだという。
この間ルパンから贈られたあり合わせの宝石の薔薇とは比べものにならないものと聞いて、今回は私の独り占めねと鼻歌を鳴らしながらオートロックのボタンを押した。

「ハァイ、ルパン。アタシよ、峰不二子」
『ふじこちゃ〜ん!待ってたぜぇ、どうぞ中へ〜』

ウッド調の自動ドアが開き、ホテルのロビーさながらのラウンジが目の前に広がる。
深夜ということもあって、人影はなかった。

最上階専用のエレベーターに乗り、中の鏡で身だしなみを整える。
今日はこの後に向かう旧財閥グループのパーティーに潜り込むため、髪は夜会巻きにしていた。
後ろ髪が少しほつれた方がセクシーかしらと迷っているうちに、エレベーターが開く。

このフロア全てルパンの部屋らしく、エレベーターの先の廊下には両開きのドアが1つあるだけだった。

「ようこそいらっしゃいました、レディ」
ドアはノックした直後に開き、馴染みの猿顔を男らしく引き締めてルパンが中に招き入れる。

「まぁ、なかなかのマンションじゃなくて?
貴方がこんなに稼いでるだなんて知らなかったわ」
「お前ほどの女を呼ぶにはこれくらいの部屋を用意しなきゃいけないからな。苦労したぜ」

ルパンはたまに、私の金遣いの荒さを咎めることがある。でも、この男はそれ以上に荒い。
3億を盗み取っても、3日後にはすっからかんなんていうこともザラ。
きっとこのマンションも買い取っているに違いなかった。

「でも、アタシほどの女が来たんだから悔いはないでしょ。さ、早く仕事の話をしましょ」

マンションの中は備え付けの高級家具がそのままという形で、吸い殻の山を乗せた灰皿が置かれたテーブル以外は綺麗に整えられていた。

内装にルパンコレクションは飾られておらず、思わず肩を落とした。
案外、このマンション以外に贅沢はしていないらしい。
テーブル前の柔らかい革張りのソファーに座り脚を組むと、ルパンがワインボトルとグラスを持って隣に腰を落とした。

「コルトン?安いわねえ」
「そう言うなって。美味いワインには変わりないし、高えワインは仕事の後に残しとくもんだぜ」

ルパンは緑のジャケットを脱ぎ、袖をまくった黒シャツの腕を私の腰に回し、グラスを差し出す。

仕方ないわねとグラスを煽ると、重厚なのにしつこくない香りが鼻に抜けていく。
「味は悪くないわ」
「だろ?この香りが気に入ってんだよね、俺様も」

ルパンがグラスをテーブルに置き、仕事の資料をテーブルの上に広げた。
その時傍に避けた灰皿に、ジタン以外の吸い殻が多く混ざっていることに気がついた。

「ねえ、あの黒いガンマンはどうしたの?」
「次元大介のことけ?あいつなら今バイト中だよ」
「今回の仕事には絡まないってことね。良かったわ、あの男アタシのこと睨むんだもの」

何枚かの資料にはお宝があるという竜宮城のような屋敷の間取り、その主人である赤龍の写真とプロフィールが詳細に書き込まれている。

無類の女好きで日本の美女に目がないという項目に、小さく微笑む。

「あたしは愛人として潜入するのがやりやすそうね」
「おいおい、お前は俺の女だろ」
「そう思ってるのは貴方だけよ。それとも他に方法でもあるの?」

ワインをくゆらしながら聞くと、ルパンはそんな危ねえ役じゃなくたって大丈夫だと微笑む。

「天井にでも忍び込んで、宝石釣り上げてくれるだけでいい」
「張り合いないわね。そんなつまらない役、やりたくないわ」

泣く子も黙る峰不二子には役不足な内容に抗議すると、ルパンは私の唇に人差し指を当てて閉じた。

「凄腕の用心棒がついてるんだよ。それもお前の色気が効かない男だ」
「あら、ゲイなの?」

私がそう聞くと、ルパンは吹き出して笑い始めた。
「どうだろうなあ、いたってノーマルな男だと思うぜ」
「んもう、その用心棒って誰なの?」
「ン」

笑いをこらえながらルパンが写真を差し出す。
そこには黒いボルサリーノに喪服スーツの、リンカニックに顎髭を伸ばした男がこちらを睨んでいる。
背景はこのマンションの中だった。

「やだ、次元じゃない。寝返ったの?」
「いいや。俺が行けって言ったんだ」
「またどうしてそう面倒臭い事するのよ。敵に回したら厄介でしょう。あの男が裏社会で何て呼ばれてるか知ってるの?」

死神に愛された男よと伝えても、ルパンはワインを舐めてニヤニヤしているだけだった。

「俺はまだあいつの本気を見てねえんだ。チャンスだろ?」

ルパンは格好つけてワインを飲み干し、話はこれで全部だとソファーに背を預ける。

まったく、男ってどうしてこうバカというか、腕試しをしたがるのかしらと呆れながら残りの書類に目を通しておく。
厳重かつ凶暴なセキュリティーをどう解くかはまだルパンの頭の中らしかったけれど、自分のおおよその動きは把握できた。

「貴方には付き合いきれないとこが多くて困るわ。でも、ダイヤのためだからね」

参加させていただくわとウインクして立ち上がろうとすると、ルパンが腕を引っ張ってきた。
そのままソファーに引き倒されて、グレーの瞳がパーソナルスペースに侵入してくる。

「明日にはお宝のある上海に飛ぶし、せっかくなら泊まっていけよ」
「明日に飛ばなきゃ行けないんだから、荷物をまとめなきゃ」
「全部あっちで買ってやるって」
「いやぁよ、死んでも偽物のブランドは身につけない主義なの」

キスしようとした顔を手のひらで払って、ソファーから起き上がると、ルパンがまた腰に手を回してきた。

「俺も独り寝する夜は偽物の宝石くらい嫌いなんだよな」
「髪を乱したくないの、ルパン」

冷たくあしらって立ち上がり、縋るルパンを振り払って部屋から去った。

1階のフロアから外へ出ると、雨は止んでいた。
不意に上から名前を呼ばれた気がして夜空を見上げる。

すると薄明るい深夜の空から、アマリリスの花を傘に飛行機のチケットが落ちてきているのが見えた。

ふわふわと落ちてくるそれを受け取ると、赤いアマリリスの花は宝石をあしらった造花で、
花びらには金の文字が輝いている。

『明朝9時、羽田空港で 俺の輝くばかりの華へ』

アマリリスの花言葉を添えたラブレターなんて、クサいけど嫌いじゃないわ。

「キザな男。でも、神話みたいに男のためを思って自分を傷つけるような女じゃなくてよ」

チケットを胸の谷間に、花を耳に差し込みヒールを鳴らし、夜の帳が輝く場所へ向かった。

-------------

ピンポン、とチャイムが鳴った。

不二子が忘れ物でもしたかとインターホンを覗くと、そこには白い道着に黒い袴の男が佇んでいた。




<3>

「遅いぞ。次元大介」

手配された飛行機で、俺は深夜の上海へ来ていた。
空港には例のブランド固めの男が待ち構えていて、俺を見つけるなり直ぐさまやって来た。

「それより、俺のアレは」
秘密裏に俺のマグナムも運ばせていたのを返せと手を差し出すと、場所をわきまえろと一蹴された。

「アジトに着いたら返してやる。ボスもお待ちかねだ」

腰が軽いままだと、どうにも居心地が悪い。
奴の懐にあるのは分かっていたが、大人しく後をついて行くことにした。

空港のロータリー前には真っ赤なベンツ250CEが停まっていて、ブランドは運転席に、俺は後部座席に乗り込んだ。

車が走り出し、明るい空港から離れていく。

発展途上の上海の街には、どこもかしこも茶けた背の低い建物しかない。
しかも今夜はこちらも雨らしく、汚れた水滴がフロントガラスに自殺しては流れていく。
夜となるとまばらな街灯で薄暗く、日本のようなネオンも少なかった。
裕福なブルジョア達が入るような店もなく、雨の街をうろついているのは行き場のない人間ばかりのようだった。

「シケた街だぜ」
「今はな。だがこれからは東京に負けないほどの発展を遂げる。うちのボスのおかげでな」

飛び出してくる浮浪者にクラクションを鳴らしながら、マフィアの男は車を走らせる。

しばらくして、薄汚れた街に異彩を放つ巨大な屋敷が見えてきた。
反り上がった屋根に、朱色の塗装がされている。所々に金の装飾がなされ、まるで汚染された海の底の竜宮城と言った様子だ。

「降りろ」
玄関前で降ろされると、下っ端が運転席を変わり車を片付ていく。
俺はブランドの後をついて、雨に濡れるジャケットの水滴を払いながら玄関の階段を登る。

バーバリーの傘を差したブランドに向かい、雨の中列を揃えて待っていた構成員達が頭を下げた。
だが、俺が通る頃には頭を上げ睨みつけてくる。

中へ入り、一際豪奢な扉の前でブランドが立ち止まって何度かノックをした。

「次元大介を連れてきました」
「入れ」

ドスの効いた声が扉の向こうから聞こえると、愛人らしい肌けたドレスの女達が内側からドアを開けて招き入れた。
大広間の中は金の壺やら彫刻やらの骨董品が所狭しと並び、まるで黄金専門の美術館倉庫と言った具合だ。

奥には2m程もあるどでかい金色の玉座があり、そこに肥えた五十過ぎの男が、ハゲ頭を晒して鎮座していた。
男は派手な赤い着物に、金のネックレスをジャラジャラさせながら俺を見る。

「よう次元、元気そうじゃねぇか」
「つまらねえ挨拶はナシだぜ、醜いマムシになりやがって」

黄金荒らしの赤龍。この上海で最も規模を誇るマフィアのボス。
阿片やら銃器の密売やら、金に汚く手段は乱暴で有名な男だった。
とりわけゴールドの収集に熱心で、国中の金山を買い占めたことで黄金荒らしの二つ名が着いた。

同時に乗るもの着るもの全て赤で揃えるところから、裏社会では揶揄されて血まみれのマムシとも呼ばれている。

昔、奴の依頼を何度か受けたことがある。
まだ駆け出しの頃、場所は中国ではなくニューヨークだった。
あの頃の赤龍は痩せて背の高いニューヨークマフィア。
そしてその組織の後継者候補で、俺は戦争帰りの青二才だった。
俺は腕を買われてこの男の世話になり、そのおかげで名も売れた。
そしてこの男も組織のボスまで上り詰めることが出来た。
しかし俺が組織を離れた後、分裂を起こし赤龍は母方の中国に舞い戻り、ブランド共に新たな組織を立ち上げたと聞いていた。

「お前の噂はかねがね…と言いたいところだが、雇い主の湊組は壊滅した上、トンズラこいて泥棒と組んだらしいじゃねえか」

どうやら、俺のことは調べ尽くしているらしい。
感情を読まれないよう帽子を抑え、床を見つめる。

「気の迷いみてえなもんさ。で、その役立たずな俺に一体何の用だ」
「分かり切ったことを言うな。腐ってもお前は世界一の殺し屋だろう。黙って雇われてもらう」
「相変わらず高圧的だな。まあいいぜ、ここ最近暇してたんだ」

そうでも言わないと、俺のマグナムは帰って来そうになかった。
同じ型の銃はいくらでもあるが、俺の命を幾度となく助けてくれたそれは1つしかない。
何があっても取り戻さなければいけなかった。

赤龍はブランド固めの男に銃を返せと手を振った。
すんなりと銃を返され、俺はようやく安堵の息を吐いた。
腰に差し込んで、スーツを整えればいつもの調子が戻る。

「それで、お前を狙おうって命知らずは誰なんだ?」
「狙われているのは俺じゃない、こいつだ」

赤龍ははち切れそうな腕を懐に差し込み、スイッチを取り出した。
それが押されれば、玉座の直ぐ真横から箱がせり上がって来た。
細長い大理石の中心は祠のように掘られ、そこには真っ赤な宝石。
だがそれはルビーではなかった。

まるで血の滴るような赤いダイヤだ。
10カラットほどのそれはマーキーズにカットされ、白いサテンの上で燃えるように輝いている。

「レッドダイヤか…初めてお目にかかったぜ」
「政府が俺に金が足りないと縋り付くもんでな、アメリカに売りつけるために手に入れた」

手に入れたとは言うが、おおよそブラジルあたりから強奪して来たのだろう。

「それで、あんたはそれを売ってお役人にでもなる気かい」

俺がそういうと、赤龍は大口を開けて魔王のように嗤った。

「そんなケチなもんじゃねえ。俺は影のまま、この国の王になりたいのさ」

奴が葉巻を咥えれば、愛人達がすり寄って火をつける。
何度か吸うと、愛人の1人に紙切れを握らせ俺の元へ向かわせた。

「そんな俺に楯突こうとしてるバカだ」

紙切れを裏返すと、見覚えのある猿顔の男が写っている。
そういうことかよ、とひとりごちて写真を放り捨てた。 

「お前、この男と組んだんだろう。知ってることは全て聞かせてもらうぜ」

ブランド男が口を挟む。

「俺がこいつのスパイだとは思わねえのか」
「まさか。お前はスパイなんざできる性分じゃねえだろ」
おっしゃる通りで、とふざけて両手を胸まで上げる。

「ルパンがこのレッドダイヤを狙っている。お前は命よりこのダイヤを優先して守れ。情報も提供しろ。分かったな」

赤龍は命令し、玉座から降りて奥の寝室へ愛人を引き連れて消えた。

(あいつ、知ってて俺に行けと言ったな)

最初は相棒になれとか言っていたくせに、わざわざ敵に回すとは。
あのサル、本当に何を考えているのか分からない男だ。

俺も帽子を傾けて、龍の巣を後にした。



<3.5>

明くる日も雨だった。
梅雨はこの中国にも来ていて、ただでさえ冴えないこの街はさらにみずぼらしい姿になっていた。
俺はブランドに呼ばれて、応接間らしい部屋に通された。

金色の龍が四隅の柱を登り、壁も天井も絨毯も混じり気のない朱に染められている。
悪夢みてえな部屋だと呟きながら、木製の1人掛けソファーに座った。

目の前にはプラダの青いジャケットにジバンシィのド派手な赤のチェックシャツを合わせた奴が座っている。
こっちも悪夢だぜと、悪態をついた。

「口を開くならルパンに関することだけにしろ」

男がそう言って向かいのソファーに座り、脚を組む。

「ルパンとはいつ頃からの付き合いだ?」

尋問と言わんばかりの低い口調だった。

「付き合っちゃいねえよ。あいつが俺の周りを勝手にうろちょろしてただけだ」
「ブラックダイヤを奴と盗んだんだろう。嘘を吐くならもっとマシなのにしろ」
「無理やり巻き込まれたんだよ。好き好んで組んだんじゃねえ」

お前ほどの男が巻き込まれるだなんてことがあるかと怪訝な表情を見せ、脚をまた組み替える。

「あいつの盗みの手口は?」
「下調べはきっちりやるようだぜ。盗みが始まれば神出鬼没と言った具合で、アレコレ道具を用意してたな…。とかく、小手先じゃ通用しねえ」

もう少し詳しい事も言えたが、俺は密告屋じゃないと心の中で吐き捨てて黙る。

「それじゃ前情報と大差がないんだよ。全く、期待はずれな男だ」
「当たる人間を間違えてんだよ」

俺は苛立ちで右膝を膝を揺らし、貧乏ゆすりを始める。
全く無駄な時間だぜと懐の煙草に手を伸ばした時、ブランドが臭いがつくと怒鳴った。

「ふん、なら外で吸わせてもらうぜ」
「お前の身体検査がまだだ、逃げるんじゃねえ」
「あ?」

去ろうとした俺の前に立ちふさがり、男が部下を呼ぶ。

「盗聴器をつけられていたらたまらん。その服は全て燃やす」
「丸裸で戦えってのか」
「代わりのスーツを用意した。さっさと着替えろ」

ここでかよ、と部下が一応新品らしいスーツを俺に差し出す。

「野郎に囲まれながら着替える趣味はねえぞ」
「俺達だって見たかない。いいから着替えろ」

勘弁しろよなとぼやきながら、ジャケットとシャツを脱ぐ。
袖を通したワイシャツは糊臭くて、少し緩かった。
黒いジャケットも同じような具合で、締まらねえと言葉が漏れた。

スラックスも変えろと差し出され、嫌々穿き替える。
靴まで変えられたが、運良くサイズが合っていたのにだけ安心した。

「おい、煙草とライターぐらいは返せよ」

部下に言いつければポケットを探り、眉をひそめた。
その汚い手から薄青のリングケースが取り出され、ブランドがそれをひったくった。

「こいつは?」
「ああ…こないだ盗んだもんだ。言っておくが開けるなよ」
「その手に乗るか」

止めたにも関わらず、ブランドがリングケースを開けた。
だが、そこにはただ黒くカットされた石があるだけだった。

「こいつはなんだ?ただの石ころじゃないか」

光を吸い込むはずのダイヤが光を反射して輝いている。いつの間にすり替えられたとリングケースを奪い取り、中を探る。

台座のクッションが取れ、中に発信機が入っていた。
あの野郎、俺が開けないと分かっていて持たせやがった。

「何だそれは!」
「発信機だよ。狙いのもんが見つかって良かったじゃねえか」

ぽいとリングケースを投げ返し、着心地の悪いスーツの肩を回す。

「待て、帽子も見せろ」

ブランドがそう言って手を伸ばした時、俺は反射的にその手を叩き落としていた。

「気安く触るんじゃねえ」

帽子を取り、何度か回して見せて仕掛けがないことを見せる。
何も言ってこないのを確認し、俺は前髪を後ろに撫で付けてからかぶり直した。

そのまま部屋を立ち去り俺の部屋へ帰った。
硬い木製のソファーに座りながら、自分の姿を見る。

着せられた安い黒スーツのせいで、自分までもがみずぼらしくなっている。
血を吸ったフェンディのスーツは今頃、赤い炎の中で物言わず燃えているのだろう。

鎧を剥がされた気分になり、自分でもモチベーションが下がっていくのが分かる。
それでも、恩を返して自由になるためと思えば後を引かない。

「お前だけは無事で良かったぜ」

レザーの帽子のツバを長年連れ添った妻のように撫でる。

それだけで、聞き分けのいい心は凪いだ。



<4>

赤龍の用心棒になっていく日かが経った夜。
しばらくぶりに地面が乾く天気で、空は静かだった。

あのコソ泥からの予告状はまだ届いていなかったが、いつ来るか来ないかとマフィア達は浮き足立ち、手当たり次第に用心棒を雇っているようだった。

充てがわれた客間の木製のソファーは真四角で、背もたれは穴の空いた格子の装飾がなされている。
これじゃあ弾除けにならねえなと考えながら、俺は何をするでもなく目を閉じていた。

カマボコ型の窓のカーテンから覗く月明かりは途切れ途切れで、また雨が降りそうだった。

日付が変わる頃、地響きのような音がして目を開けた。
直ぐにブランドが部屋に入ってきて起きろと命令してくる。

「何だ。マフィアが揃いも揃って右往左往しちまって、情けねえな」
バタバタと通り過ぎていった部下の足音が去った後、俺は起き上がって男の顔を見上げた。

「減らず口を叩くな。門に変なサムライが現れたんだ、お前も来い」
「サムライ?刀で切りかかって来るあれか」
「入り口の柱がバラバラにされた。あのコンクリートの太い柱をだ。今はマシンガンで抑えてるが、ルパンが来た時に備えて無駄撃ちはしたくない」

プラダのジャケットが大事と見えて、男はシャツにガンホルダーという出で立ちでデザートイーグルに弾を込めている。

俺も腰のマグナムを抜き、弾をチェックし廊下に出た。
マシンガンがドラムロールのように撃ち出されている音を聞きながら前線の玄関へたどり着くと、部下が中国語でブランドに現状を伝えていた。

「あの野郎、弾を刀で切り捨てるらしい。油断するな」
「下手な冗談はごめんだぜ。そんなやつ映画の中にしかいやしねえよ」
「なら何故、奴は弾丸の嵐の中生きてるんだ。油断して死んでも葬式は出さんぞ」

ブランド男がイーグルの引き金を引き、何度か撃ち込んだ。
だが、暗闇と土煙の中にぼんやりと浮かぶ白い影に金属音が響くばかりで、断末魔は聞こえて来ない。

それどころか、影はじりじりと前進してきた。
俺も何度か隙を狙って打ち込んだが、まるで怯む様子がない。

「おいおい、冗談じゃねえぞ」
これではいくら撃っても無駄撃ちだと銃を下げる。
もっと強い武器はないのかとブランド男が怒鳴ると、部下がカノンなんちゃらと答えた。
人1人相手にカノン砲かよと思わず言ったが、それぐらいしないと倒れてくれそうになかった。
すぐに裏庭からカノン砲が運ばれてきたが、100ポンドが撃てるその巨大さに唖然とする。
こりゃあ原型は残らねえな、と様子を見守ろうと顔を外に覗かせる。

アームストロング砲を相手に生きてる人間などいるものか、とブランドが発射の合図を叫んだ。

1秒後、火薬の光が目を刺し、爆音が地を揺らした。
ボタボタと舞い上がった小石と土が地面に落ちる音の後、土煙が次第に消えていく。

そこにはまだ、あの白い人影が腰を屈めた状態で生きていた。
鉄の塊は、綺麗に縦二つに切り裂かれていた。

「化け物め…」

ご自慢の革靴に砂埃がたまっているのを忌々しげに見やり、ブランド男が悪態を吐く。
これは安全圏から倒すのは不可能らしい。

「おい!レッドダイヤのイミテーションくらい用意してるんだろうな」
「偽物を渡して引き下がる奴には見えんぞ」
「俺が持ち出すように見せかけて引きつける。その間に本物とボスを連れて逃げな」

俺が早くしろと手を招くと、渋々安っぽいガラスの赤いダイヤを俺に渡した。

「次元、こいつも持っていけ」
そう言ってゴツい無線機を渡そうとしたが、そんな荷物は要らねえと押し返した。

「生きてりゃ朝飯までには帰ってくる」

フル装填したマグナムを構え、俺はサムライの目に映るか映らないかの角度から外へ駆け出した。
塀を乗り越える前に少し振り向くと、どうやらかかってくれたらしく白い亡霊が俺に向かって走ってきていた。

おっかねぇな、と強い敵に興奮と恐怖が織り混ざり笑みを生む。

俺は屋敷に近いごちゃごちゃとしたスラム街に逃げ込み、死角がなるべく少ない通りで息を潜めた。
真夜中のスラム街は思いのほかシンと静まり返り、喧嘩や子供の泣き声もしなかった。
鈍く光る街灯の電球が、辺りをセピア色に染めているのを見ると、時間が止まってしまったかのようにも思える。

音がしてくれた方が助かるのによ、と奴の気配を気取るため、精神を研ぎ澄ませて感覚の網を張った。

通りの向こう側から、誰かが歩いてくる。
怨霊の殺気というに相応しい重苦しい気配が、俺を探していた。

俺は斬りかかれない距離と判断してから、塵と砂にまみれた薄汚い道にゆっくりと顔を出した。

「お前さんの狙いはコレかい」

イミテーションダイヤをチラつかせると、亡霊は目を鋭く光らせた。

「…返してもらう」
「悪いが仕事でな。こいつを狙う以上、命を取られても文句は言わせねえ」

マグナムを構えると、奴も鞘に手を添え居合斬りの構えを見せる。

銃での勝ち目は、先の様子を見る限り殆どない。
だが、やるしかなかった。

俺がおもむろに一発撃ち放つと奴はいとも簡単に斬り捨てた。
奴の間合いからは遠いとはいえ、こんな近距離の弾も見切られるとは。

一筋縄どころか、束になっても敵わねえなと口を下に歪めた。
だか俺は刀に向かって三発撃ち放ち、奴の間合い、あえてデッドゾーンに踏み込んだ。

「渡せ。そうすれば命までは取らん」
「プロはな、自分が死んでも守れと言われたものは守り抜くもんさ」
「…なら共に奪わせてもらおう」

奴も不敵な笑みを浮かべ、刀を縦に構えた。

じり、と奴の草履が砂をにじる。
俺も後ずさりし、街灯に背がつくまで後退した。

そしてしまったという表情を見せた。

俺の顔を見た侍の足が土を蹴り上げる。
追い詰めた鼠を引き裂こうとする猫の目のように刀が光りを流す。
俺はその瞬間に、弾丸を街灯に食い込んだ鉄の足場へ撃ち放った。

「諦めたか!」

奴が叫びながら俺の懐に飛び込んで来る。
懐のダイヤまで斬り捨てることを案じたのか、その切っ先が俺の心臓を狙い突き進む。

だが心臓に届くコンマ何秒か前に、跳弾した357マグナム弾が天から降り刺さった。
弾は刀の反りを叩き落とす衝撃を与え、刀ごと男の手元を下げた。

コンクリートを突き抜ける刀の悲鳴と、男の驚いたように見開かれた目と視線が合う。

思ったより若い男の額にまだ熱いであろう銃口を突きつけ、俺は苦笑した。

「…普通の人間なら、刀を落とすはずだぜ」

切っ先は俺の左の脇腹に突き刺さっていた。
そう全部は上手く行かねえかと呟き、引き金の遊びをじりじりと握り込んでいく。

「どうするよ。大人しく引き下がるなら、肩だけで済ませてやるぜ」
「笑止。敵の情けは受けん」

男も涼やかな笑いを見せた後、目を閉じた。

言い残すことはない、という態度に俺も声をかけることを止めた。
そして引き金の遊びが終わり、これで最後というところで手を叩く音が辺りに響き始めた。

「ブラボー!お二人さん、最高の試合だったぜ」

向かいの道の奥から、セピアに照らされた男が拍手をしながらやってくる。
それはグリーンのジャケットを着込んだ、ジタンを吸う奴だった。

俺がその名を呼ぶ前に、サムライが顔を上げた。
「ルパン…!」

知り合いかと奴を見ると、へらへらした締まらない顔でお疲れ様〜などと手を振る。

「どういうことだ」

俺が問いかけると、奴は両手をスラックスに突っ込んだ。

「いやーそこのサムライがね。レッドダイヤは拙者の恩人の宝だ〜って俺の言うことも聞かずに出て行っちゃったのヨ。凄腕のガンマンが守ってるからやめとけって言ったのに」

ほらほら離れたと奴が俺たちの間に入ろうとしてきて、俺は凍った。
奴に銃を向ければ、サムライに斬り捨てられる。
だが奴が撃ってくる可能性もある。

「近づくんじゃねぇ!」

俺が怒鳴ると、奴は歩みを止めた。
へにゃりと毒気のない笑顔で、何も持ってないよと両腕を上げる。

「安心しな、次元。お前を撃ちやしねえよ」
「誰が信用できるか」
「わーったよ、五右衛門。ここは納めてくれるな?そいつが持ってるのは偽もんだ」

五右衛門と呼ばれた男は徐々に殺気を消し、素早く刀を俺の腹から引き抜いた。
一振りして血を払い、刀を鞘に納める。

思い出したように傷口から血が溢れ出したが、どうやら脈には触れていなかったらしく、量が多くないのを確かめる。

「次元、お前も銃を下ろせよ」
半分仕方なしに銃を下げ、腹に手を当てた。
抑えても生温い血はドクドクと流れ出している。
痛みはまだ脳内麻薬で押さえられているが、傷を負った自覚に伴ってじわじわと這い上がり始めていた。

「盗みは明後日の予定だったのによ。どっかの誰かさんのおかげで狂っちまったぜ」

奴が言いながら懐の青い紙袋を取り出し、煙草を咥えてジッポで火を点ける。
睨まれたサムライは存ぜぬという顔で奴の隣をすり抜け、通りの先へ消えて行った。

俺も奴もその姿が見えなくなってから、顔を見合わせる。

「俺を殺す気だったな」

殺意を込めた視線と銃口を向けると、奴は緑色のジャケットを湿った風にはためかせながら俺を見つめる。

「まさか。まあ、死ぬかもとは思ったけどな」
勘違いするなよ、あいつは俺の敵でもねえが味方でもないんだ。
そうのたまい、奴が俺に近づいてくる。

「止まれ!」
マグナムを構えて壁に重心を預ける。
これくらいの傷なら、決して外さない自信があった。

だが奴はつかつかとお構いなしに近寄って来る。
俺は堪らず奴の脚に向けて引き金を引いた。
その弾は確かに奴の膝へ突き刺さった。

だが、おかしい。不動のまま動かない。
普通なら脚を折って悶えるはずだ。
気味の悪さにまたマグナムを構えた時、アルトの歪んだようなテノールの声がどこからともなく響く。

「マグナムの7発目なんてどこから出す気だ?」
奴の脚の後ろから、黒いスラックスが出てくる。
幻覚かと目を擦ると、下半身だけのマネキンの後ろに奴が立っていた。

「ぬふふ、俺様お得意の身代わりの術〜!」

ニンニンとふざけたポーズをしたかと思えば、俺の間合いへ踏み込んでくる。
ポケットに手を突っ込もうとした瞬間、手首を掴まれた。
「撃たないでくれよ、頼むからさ」
 
奴が銃を握った俺の手を壁に抑え付けて、耳へ唇を寄せて来た。
煙草の火の熱さに炙られ、顔を背ける。
その上奴は俺の腰に手を回し、風穴空いちまってるなあと呟いた。

「2週間後、赤龍のレッドダイヤを頂く。お前もそれまでに傷口塞いどけよ」

煙草を咥えたまま奴がそう言って俺にウインクを飛ばし、サムライが消えた方向へ去っていく。 

まただ、と歯をくいしばる。
また奴に踊らされた。

ふと自分の腹を見ると、防水の絆創膏が腹に貼られていた。
背中にまでその絆創膏があり、俺は痛みを無視してそれを剥ぎ取る。

「クソ!」

プライドにまで風穴を当てられたようで、怒りが湧いてくる。
いつもならすぐに消える感情が、いつまでも心臓の中で暴れている。

八つ当たりに弾を一発装填し、空に向かって撃ち放つ。

再び静寂が戻った頃には、向かいに暁が見え始めていた。